| sugitaru • PM |
Sep 11, 2013 1:38 AM
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sugitaru
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「ほんとに安いものね。六円いくらでみんな揃うんだから……」
自分はクルリと寝返りを打ったが、そっと口の中で苦笑を噛み潰した。 六円いくら――それはある雑誌に自分が談話をしたお礼として昨日二十円届けられた、その金だった。それが自分の二月じゅうの全収入……こればかしの金でどう使いようもないと思ったのが、偶然にもおせいの腹の子の産衣料となったというわけである。そして彼女はあのとおり嬉しそうな顔をしている。無智とも不憫とも言いようのない感じではないか。それにつけても、呪われた運命の子こそ哀れだ……悩ましさと自責の念から、忘れかけていた脊部肋間の神経痛が、また疼きだした。…… こうした生活が、ちょうどまる二カ月も続いているのだった。毎日午後の三四時ごろに起きては十二時近くまで寝床の中で酒を飲む。その酒を飲んでいる間だけが痛苦が忘れられたが、暁方目がさめると、ひとりでに呻き声が出ていた。装飾品といって何一つない部屋の、昼もつけ放しの電灯のみが、侘しく眺められた。 八王子 歯科 http://www.lesblogues.com/yaseusi/ |