| sugitaru • PM |
Oct 01, 2013 9:48 PM
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sugitaru
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旅行者はちらっとその男のほうを見た。男は、将校が指さしたとき、頭を垂れ、何かを聞こうとして、聴力をことごとく緊張させていた。ところが、厚ぼったく結び合わされた唇の動きは、どうも彼が何もわかっていないということを示しているようであった。旅行者はいろいろたずねたかったが、男をながめながらただこうたずねただけだった。
「あの男は判決を知っているんですか?」 「いや」と、将校はいって、すぐ説明をつづけようとしたが、旅行者がそれをさえぎった。 「自分自身の判決を知らないのですかね?」 「いや」と、将校はふたたびいって、それからちょっとのあいだつまってしまった。まるで旅行者からその質問のもっとくわしい理由を求めているような様子だった。それから、こういった。「教えてやっても意味はないでしょう。なにしろ自分の身体で思い知るわけですから」 旅行者はもう黙っていようと思った。受刑者が視線を自分に向けていたからだった。その視線は今語られた刑執行の手順を正しいと思うか、とたずねているように見えた。そこで、すでに椅子にもたれかかっていた旅行者は、また身体を前にかがめて、さらにたずねてみた。 「でも、あの男が刑を宣告されたということは、知っているんでしょうね?」 「それも知らないのです」と、将校はいって、相手からさらにいくらかの奇妙な発言を期待するかのように、旅行者に向ってほほえみかけた。 薬剤師国家試験対策の予備校・家庭教師 ファーマシー家庭教師スクール 薬剤師国家試験 予備校 | 薬塾 |