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過ぎたるは猶及ばざるが如し 1 MEMBER:
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sugitaruPM
#1
ほんたうに浮世の夜が
Oct 25, 2013 2:50 AM
sugitaru Founder - Joined: Jul 28, 2013
Posts: 186
 ほんたうに浮世の夜が明けるのは、秋のこととて、長いことであつた。それを長いとも短いとも、文吾は一切夢であつた。浮世の夜が明けて、文吾の夜も全く明けた。文吾はたゞぼんやりしてゐた。其の小ひさい背中をば、女が輕く叩いた。
「何考へてなはる、坊んち。」と、言つた聲は、文吾の耳に滲みた。
「山吹さん。……」と、文吾は大人のする大きな枕に押し付けてゐた耳へ、よく覺え込んでゐた女の名を改めて呼んでみたが、何も言ふことはなかつた。
「はい。……」
「…………」
「何んです。……何んとか言うとくなはれ。」
 今日はもう山吹に別れなければならないのかと、文吾の悲んでゐるところへ、源右衞門は頓に若返つた五十面を、朝酒にほんのりさせて、入つて來た。
「石川の坊んち。今日も流連や、幸ひ雨になりさうで、結構なこつちや。」と、丹前姿で突つ立つたまゝ言つた。
「おゝ、嬉しい。……」と、山吹が魁けて欣んだ。流連の意味が文吾にはよく解らなかつたけれど、雨が結構ぢやと言つた源右衞門の言葉と、女の嬉しさうな顏とから推し測つて、文吾もぞく/\と嬉しかつた。

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