| sugitaru • PM |
Jan 10, 2014 7:48 AM
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sugitaru
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「お早う。ねえ、熊川君、この方はね、農学博士の菊井茂兵先生だ。高冷地農業の権威で、今度、研究所をこの附近に作られるんださうだ。上高地にも試験場をもつてをられて、いろいろ貴重な研究もおありのやうだから、君なんかこれから、なにかとご指導をねがふといゝ。今までの経験で、どうもわからんというところは、今日いゝ機会だから、伺つてみたらどうだね?」
菊井博士は、パナマ帽を脱ぐと、もう頭髪に半ば霜をおいてゐるに拘はらず、からだつきといひ、顔色といひ、ほゞ同年輩と思はれる日張博士よりもずつと若々しく、ピチピチしてゐる。 「やあ、なかなか、なんでもよくできてゐますな。かういふ土地のお百姓仕事は、並大抵ぢやありませんよ。このトウモロコシは、ぢか蒔きですか、移植ですか?」 「そのよく伸びた方がぢか蒔で、むかうのヒヨロヒヨロした方が苗を移植したもんです」 と、日張博士が、熊川忠範に代つて答へた。 熊川忠範は、かねて自分がぢか蒔説を主張してゐただけに、やゝ得意であつた。苗を移植した方がいゝさうだ、とは、日張博士がどこから聞いて来て、しきりに言ふから、やつてみたまでである。 「移植はどうも、この土地では成績がわるいやうです。どこでもやつてゐません」 と、熊川忠範は、つけ足した。八王子 歯科 |