| sugitaru • PM |
Jan 24, 2014 4:06 AM
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sugitaru
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「下の道を早速なほさにやなりませんから……。どうもこのへんは水にたゝかれるでねえ……」
と、黒岩万五は、U字形に曲つた谷川の岸の、年とともに浸蝕されて行く現象を説明したつもりである。 彼はもう一軒挨拶に行かなければならない別荘があつた。そこで、素子には、明日山女魚が要るなら今夜一網打つことにしようと云ひ、暇を告げた。 分譲地「泰平郷」の入口まで来ると、建設事務所にもちよつと顔を出しておかうと思つた。主任の粕谷が村の青年小峯喬と話をしてゐる。 「やあ、黒岩君、ちやうどいゝところへ来てくれた。今、小峯君の話を聞いて、僕はこの村の識者が何を考へてゐるのか、不思議でたまらんのだ。いゝかね、今度、われわれの方で、水道の管理と道路修繕のために常傭の人夫を二十名ばかりおかうと思つて、この春から勧誘にかゝつてるんだ。ところが、個人的に話が纏りかけると、どつかからそいつをぶち毀しにかゝる。さういふ策動の張本が、この小峯君あたりぢやあるまいかとにらんだものだから、今日実はちよつと来てもらつたやうなわけさ。こんな話は駐在に知れても面白くないからね。県の方ぢやむろん、問題を大きくとりあげるだらうと思ふ。泰平郷の発展は、一営利会社の事業拡張とは全然意味が違ふんだからねえ」 ヴォラーレ |