| sugitaru • PM |
Feb 12, 2014 10:03 AM
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sugitaru
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「今のお前たちには、まだよくはわからないだらうけれど、主婦のゐない家といふものは、心棒のない車みたいなもの、或は舵のない舟みたいなもので、家のものがみんな安心して暮して行けない。そればかりぢやない。この戦争では一軒一軒の家が戦争に勝つための用意をちやんとしていかなけれやならん。お母さんがゐなくなつてから、うちだけは、どうしてもほかのうちのやうにうまくいかないところがある。それはなるほど当り前で、誰だつてお母さんのやうに自分で考へて、自分でいいやうにするつていふわけにいかん。お父さんにいちいち相談しないでも、お父さんの思つてるとほりになんでもするつていふ人間はこれはお母さん以外にないのだ。そこで、お前たちに訊ねたいのだが、もう一度死んだお母さんに生きて来てもらふなんてことはどうせできないんだから、お前たちにとつても優しい小母さんで、お父さんもこの女なら家のこと、お前たちのことを委されると思ふひとを、ひとつお母さんの代りに探さうぢやないか。それが一番いいと思ふが、どうだ?」
二人の娘は口を固く結んで、眼はそれぞれ一点を見つめたまま、なかなか返事をしようとしない。ヴォラーレ |