| sugitaru • PM |
May 05, 2014 5:02 AM
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sugitaru
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木原 平栗さん、ちよつと話があるんだが……。ここを借りるか?
平栗 (その方は向かずに)どこでもいいですよ。木原先生は今日は宿直ですか? 木原 冗談はよしてもらはう。僕は毎日宿直をするくらゐなら小使になるよ。火の気のない部屋と女ッ気のない家は、僕の性に合はんのだ。 平栗 なにを、えらさうに……。いくら時代が変つたからつて、先生がそのもつともらしい顔で、くだけた口を利くのはをかしいや。第一、先生の授業はそのわりに生徒にうけないのはどうしてでせう。しかし、首の方は大丈夫ですか、今度は? 木原 保証はできんね。だが、新塾長は思つたより話がわかるんでね。僕はなるほど最初反対はした。桃子女史の隠退は当然だとしても、ただ血を引いた娘だからといつてだ、まるで教育者としての条件を具へてゐない中年女が、いきなりこの塾長の椅子にすわるといふ手はないと思つたからだ。候補者はいくらもある。肩書が必要なら、元貴族院議員だつて引つ張つて来れるよ。ところが僕は、八坂夫人なるものに一度会つて、すこし認識を改めた。むろん、教育事業にはずぶの素人だといふことは、話をしてみればすぐにわかる。しかし、驚くべきことには、彼女はなにかをもつてゐる。 平栗 少くとも前塾長のもつてゐないものをもつてますな。 木原 僕は、速水女塾の更生のために、学識や経験は二のつぎだと思ふ。思想的立場か? そんなものは看板に過ぎん。人間ですよ、君、人間的魅力ですよ。生徒たちはもちろん、教職員全体が頭から惚れ込むやうな塾長を得て、はじめて速水女塾の将来には光明が認められるんだ。 作業服 |