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過ぎたるは猶及ばざるが如し 1 MEMBER:
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Forum Home > General Discussion > それを聴きながら
sugitaruPM
#1
それを聴きながら
May 29, 2014 6:22 AM
sugitaru Founder - Joined: Jul 28, 2013
Posts: 186
 それを聴きながら、相原夫人は、もうすつかり日の落ちた窓外の景色に眼をやつてゐた。
 あまりしやべりこんではと気がついて、深草乃里は、会釈をして出て行つた。そして、レコードをまた、相原夫人のために新しいのと取換へた。流れ出るワルツの曲に、彼女は、すこし浮々となつて、そのまま、そこの椅子に腰をおろす。彼女は、ふと、さつきの客のだしぬけな問ひを想ひだす。
「……君はずつと、このホテルにゐるの? 何年ぐらゐになるの?」
 なぜ、そんなことを訊ねる気になつたのだらう? それから、このホテルへ来るまでどこにゐたかと訊く。船に乗つてゐた。船つていふと? 欧洲航路の客船……。自分はまた、なぜ、すらすらと、そんな返事をしたのだらう? 真つ正直に自分の前身などを、誰にでもしやべつてなにになる。黙つて笑つてゐられなかつたのか?
 ――さう、さう、あの客はまた、急にお星さまのことなんか言ひだした。この山のお星さまは、なるほど、はじめて気がついてみると、平地でみるお星さまよりは、ギラギラしてゐる。しかし、お星さまなら、なんといつても、あの……。
 そこで、彼女は、二十何年か前の、あの狂ほしい紅海の一夜を、まざまざと想ひ出したのである。
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