Vultr.com - Instant Cloud Server Deployment
過ぎたるは猶及ばざるが如し 1 MEMBER:
Home
Forum
News
Share on Facebook
Share on Twitter
Share on Google+
Forum Home > General Discussion > その隣りは木地屋である
sugitaruPM
#1
その隣りは木地屋である
Sep 14, 2013 8:16 AM
sugitaru Founder - Joined: Jul 28, 2013
Posts: 186
 その隣りは木地屋である。背の高いお人好の主人は猫背で聾である。その猫背は彼が永年盆や膳を削って来た刳物台のせいである。夜彼が細君と一緒に温泉へやって来るときの恰好を見るがいい。長い頸を斜に突き出し丸く背を曲げて胸を凹ましている。まるで病人のようである。しかし刳物台に坐っているときの彼のなんとがっしりしていることよ。彼はまるで獲物を捕った虎のように刳物台を抑え込んでしまっている。人は彼が聾であって無類のお人好であることすら忘れてしまうのである。往来へ出て来た彼は、だから機械から外して来たクランクのようなものである。少しばかり恰好の滑稽なのは仕方がないのである。彼は滅多に口を利かない。その代りいつでもにこにこしている。おそらくこれが人の好い聾の態度とでもいうのだろう。だから商売は細君まかせである。細君は醜い女であるがしっかり者である。やはりお人好のお婆さんと二人でせっせと盆に生漆を塗り戸棚へしまい込む。なにも知らない温泉客が亭主の笑顔から値段の応対を強取しようとでもするときには、彼女は言うのである。
「この人はちっと眠むがってるでな……」
 これはちっとも可笑しくない! 彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
 彼らは家の間の一つを「商人宿」にしている。ここも按摩が住んでいるのである。この「宗さん」という按摩は浄瑠璃屋の常連の一人で、尺八も吹く。木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。 薬剤師募集サイトランキング 尾北薬剤師会 公式ホームページ