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過ぎたるは猶及ばざるが如し 1 MEMBER:
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Forum Home > General Discussion > が、かう考へたとき
sugitaruPM
#1
が、かう考へたとき
Dec 21, 2013 1:41 AM
sugitaru Founder - Joined: Jul 28, 2013
Posts: 186
 が、かう考へたとき、信一郎の心の耳に、『お願ひで――お願ひです。時計を返して下さい。』と云ふ青年の、血に咽ぶ断末魔の悲壮な声が、再び鳴り響いた。それに応ずるやうに、信一郎の良心が、『貴様は卑怯だぞ。貴様は卑怯だぞ。』と、低く然しながら、力強く囁いた。
『さうだ。さうだ。兎に角、瑠璃子と云ふ女性を探して見よう。たとひ、それが時計を返すべき人でないにしろ、その人は屹度、此の青年に一番親しい人に違ひない。その人が、屹度時計を返すべき本当の人を、教へて呉れるのに違ひない。又、自分が時計を盗んだと云ふやうな、不当な疑ひを受けたとき、此人が屹度弁解して呉れるのに違ひない。』
 信一郎は、『瑠璃子』と云ふ三字を頼りにして、自分の物でない時計を、ポケット深く、蔵めようとした。
 その時に、急に近よつて来る人声がした。彼は、悪い事でもしてゐたやうに、ハツと驚いて振り返つた。警察の提灯を囲んで、四五人の人が、足早に駈け付けて来るやうだつた。



 駈け付けて来たのは、オド/\してゐる運転手を先頭にして、年若い巡査と、医者らしい袴をつけた男と、警察の小使らしい老人との四人であつた。
 信一郎は、彼等を迎へるべく扉を開けて、路上へ降りた。
 巡査は提灯を車内に差し入れるやうにしながら、
「何うです。負傷者は?」と、訊いた。足立区 家庭教師