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Forum Home > General Discussion > 先刻息を引き取つたばかりです
sugitaruPM
#1
先刻息を引き取つたばかりです
Dec 21, 2013 1:42 AM
sugitaru Founder - Joined: Jul 28, 2013
Posts: 186
「先刻息を引き取つたばかりです。何分胸部をひどく、やられたものですから、助からなかつたのです。」と、信一郎は答へた。
 暫らくは、誰もが口を利かなかつた。運転手が、ブル/\顫へ出したのが、ほの暗い提灯の光の中でも、それと判つた。
「兎も角、一応診て下さい。」と、巡査は医者らしい男に云つた。運転手は顫へながら、車体に取り付けてある洋燈に、点火した。周囲が、急に明るくなつた。
「お伴ぢやないのですね。」医者が検視をするのを見ながら、巡査は信一郎に訊いた。
「さうです。たゞ国府津から乗合はしたばかりなのです。が、名前は判つて居ます。先刻名乗り合ひましたから。」
「何と云ふ名です。」巡査は手帳を開いた。
「青木淳と云ふ文科大学生です。宿所は訊かなかつたけれど、どうも名前と顔付から考へると、青木淳三と云ふ貴族院議員のお子さんに違ひないと思ふのです。無論断言は出来ませんが、持物でも調べれば直ぐ判るでせう。」
 巡査は、信一郎の云ふ事を、一々肯いて聴いてゐたが、
「遭難の事情は、運転手から一通り、聴きましたが、貴君からもお話を願ひたいのです。運転手の云ふことばかりも信ぜられませんから。」
 信一郎は言下に「運転手の過失です。」と云ひ切りたかつた。過失と云ふよりも、無責任だと云ひ切りたかつた。が、戦きながら、信一郎と巡査との問答を、身の一大事とばかり、聞耳を澄ましてゐる運転手の、罪を知つた容子を見ると、さう強くも云へなかつた。その上、運転手の罪を、幾何声高に叫んでも、青年の甦る筈もなかつた。訪問歯科 川口