| sugitaru • PM |
Dec 26, 2013 2:40 AM
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sugitaru
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「母が、本当によくして呉れますの。実の母のやうに、実の姉のやうに、本当によくして呉れますの。でも、やつぱり本当の兄か姉かが一人あれば、どんなに頼もしいか分らないと思ひますの。」
美奈子は、つい誰にも云はなかつた本心を云つてしまつた。 「御尤もです」青年は可なり感動したやうに答へた。「僕なども、兄弟の愛などは、今までそんなに感じなかつたのですが、兄を不慮に失つてから、肉親と云ふものの尊さが、分つたやうに思ふのです。でも、貴女なんか……」さう云つて、青年は一寸云ひ淀んだが、 「今に御結婚でもなされば、今のやうな寂しさは、自然無くなるだらうと思ひます。」 「あら、あんなことを、結婚なんて、まだ考へて見たこともございませんわ。」 美奈子は、恥かしさうに周章て打ち消した。 「ぢや、当分御結婚はなさらない訳ですね。」 青年は、何故だか執拗に再びさう訊いた。 「まだ、本当に考へて見たこともございませんの。」 美奈子は、益々狼狽しながらも、ハツキリと口では、打ち消した。が、青年が何うしてさうした問題を繰り返して訊くのかと思ふと、彼女の顔は焼けるやうに熱くなつた。胸が何とも云へず、わくわくした。彼女は、相手が何うして自分の結婚をそんなに気にするのか分らなかつた。が、彼女がある原因を想像したとき、彼女の頭は狂ふやうに熱した。 彼女は、熱にでも浮されたやうに、平生の慎みも忘れて云つた。 「結婚なんて申しましても、妾のやうなものと、妾のやうな、何の取りどころもないやうなものと。」 彼女の声は、恥かしさに顫へてゐた。彼女の身体も恥かしさに顫へてゐた。 it保険安い |