| sugitaru • PM |
May 29, 2014 6:22 AM
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sugitaru
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食堂の係に二階の注文を伝へると、彼女は、ちやうど、そこで食事をしてゐた相原夫人の晴れやかな笑顔にぶつかつた。それはいつになく親しげな、相手を求めるやうな笑顔であつた。深草乃里は、一方でハッと呼吸をつまらせ、なにかを見破られたといふバツの悪さと、一方では、それが救ひ手でもあるやうな安堵とを感じながら、つかつかとその傍らに近づいて行つた。
「お客さまらしいわね。やつと、あたし一人になつたと思つたら……」 と、夫人は、低く、しかし、澄んだ声で、いくぶん戯談めかして言つた。 「ほんとに、今時分、珍しいお客さまでございますよ。ご一泊ださうですけれども、おはじめてでは、とんだところへ来たと思召していらつしやいませう」 「どうして? まさか、知らずにつてこともないでせう」 「それやなんともわかりませんですが、たいがいわたくしどもの眼には、それがわかりますんです。来てみて、おやおやとお思ひになる方、なるほどとお思ひになる方、それはよく見分けがつくんでございますよ。この山の中は、まつたく別世界でございますからね。なにかちやんとした目的がおありにならなければ、普通の方には、面白くもをかしくもございませんもの」飛蚊症治し方ガイド |